Completed Vision

どの会社にも、会社のビジョンというのはあると思う。「日本の食卓に夢を」みたいな抽象的なものから、「世界で五指に入る金融機関」みたいな具体的なものまで色々だが、多くの場合、一見実現不可能に思えるくらい壮大なものが多い。ただ、中にはその壮大なビジョンを達成してしまった会社もある。


その一つが、マイクロソフトである。マイクロソフトのビジョンは「すべてのオフィスや家庭にコンピューターを」というものだった。もちろん、厳密な意味ですべてのオフィスや家庭に行き届いたわけではないが、このビジョンが達成されたとすることに異論を唱える人は少ないと思う。マイクロソフトが創業した当時は、大型の業務用コンピューターしかなく、一般の家庭にコンピューターが普及するなんてことは夢物語に近かった。時代の波に乗ったとはいえ、その夢物語を実現したのはとてもすごいことで、人々の生活に大きな影響を与えたことは間違いない。


だが、そのビジョンが達成されてしまうと、その次に何をしていいのかがわからなくなった。Windowsパソコンは売れ続け、マイクロソフトに莫大な金が流れ込んではいるが、その金をどう使っていいのかがわからない。一種の燃え尽き症候群とも言えるが、人が燃え尽きてしまえば仕事ができなくなって金が入らなくなるのと違って、マイクロソフトは金だけは入り続けてしまっているので、余計に方向性が定まらない。もしも金で次のビジョンが買えるなら、どれだけ出してもいいとマイクロソフトの経営層は思っているだろう。


普通の会社からすれば、羨ましすぎる悩みではあるだろう。ただ、誰にも共有してもらえない悩みだけに、これを解消するのは非常に難しい。ビジョンというのは、近付けはしても達成できないくらいのものが、丁度いいのかもしれない。