ゼロ なにもない自分に小さなイチを足していく

巷では「ホリエモン」の獄中の思いも綴った本ということだったり、朝日新聞編集者のこの本に対する書評が酷いと話題になっていたりするのだが、この本を読んで見るなら、そういう色眼鏡的な先入観はなくして読んでみて欲しい。堀江さんは20代で時代の寵児となり巨万の富を得て、その後、経済界や世間から猛烈なバッシングを受け、果ては犯罪者となって地位も財産も失った。そんな彼が「今でもただ働きたい」と述べる姿には、「働くこと」への自分の価値観を見つめ直さざるを得ない。


この本は、ジャンル的には自己啓発的な本だが、書かれているメッセージの熱さに特徴があるように思う。本の中で繰り返し述べられている「自分の頭で考えること」「何かに依存するのでなく自立して生きること」「自由を得るためには責任を負うこと」など、一つ一つのメッセージはそれほど独創的なものでなく、他の自己啓発本でも多かれ少なかれ触れられている。それでいて、メッセージが熱く感じるのは、一般の自己啓発本が「僕のやり方を教えてあげるよ」的な上から目線のものなのに対し、堀江さんのメッセージは「読者に、そして世の中に変化をもたらしたい」という一途な思いのもとに書かれたものだからだと思う。


彼が時代の寵児だった時期、プロ野球球団の買収や衆院選に立候補したことの意味がわからなかった。ライブドアにどんな経済的効果があるのだろうとか、売名行為にしてもやり過ぎなのではとか思っていた。だが、今この本を読んでみると、それらの行動も「世の中を変えたい」という思いのあらわれだったのだなと、ようやく少し理解できた。
彼の考えや行動は、ビジネスマンという枠を超えていて、歴史上の英雄的な要素があったというと言い過ぎなのかもしれないが、ビジネスマンとしては優秀な財界人たちも彼のことを当時、理解できなかった。そしてその理解不能なことが周囲の恐怖を生み、その周囲の恐怖が彼を転落に追いやった気がする。


堀江さんに無為な時間を過ごさせたことは、この国にとっても大きな損失だったと思うが、まだ彼にも残された時間は多い。これから彼が何をしてくれるのか、非常に楽しみであり、自分もそれに少しでも貢献できればと思わせてくれる。さぁ働こう。