Vertical or Horizontal

スティーブ・ジョブズの伝記の後半に、ビル・ゲイツと語り合うというシーンがある。そのときに、ゲイツは「ソフトウェアをオープンに広める水平型アプローチが最善だと思ってきたが、アップルのクローズドな垂直型アプローチの方がすごい製品を生み出せる場合もあるとわかった」と語り、それに対してジョブズは「でも、君のやり方もうまくいったじゃないか」と答えている。時期こそ違えど、お互いが経済史に残る成功を収めただけに、このやり取りはとても面白い。さらに話は続いて、後日「垂直型アプローチがうまくいくのは稀で、ジョブズのようなカリスマがいたからだ」とゲイツに言われたことに対して、ジョブズは「そんなことはない。ただ、よくよく考えてみると確かに成功例は多くないかもしれない。自動車メーカーくらいかな」と語る。


世界的にはあまり知られていないが、垂直型アプローチで大成功を収めた企業が日本にはある。それは、携帯通信会社、とりわけNTTドコモである。ドコモはエンドユーザーに提供するサービスの内容を自らが決め、そのための端末の仕様も自社が決めて、発売時期や販売キャンペーンの方法も、完全に自社でコントロールした。その結果、iモードやおさいふケータイなどの(当時としては)革新的なサービスが生まれ、莫大な契約者数を獲得した。


アップルのアプローチは確かに製品開発としては垂直型なのだが、日本の携帯通信業界として見れば、通信会社の垂直型ビジネスに対して「端末」という水平型のレイヤーを持ち込んだとも見ることができる。ドコモがiPhoneの導入に頑強に抵抗するのは、単なる利益云々の話ではなく、自らの垂直型ビジネスを放棄するのかどうかという決断を迫られているからに他ならない。


垂直型と水平型のどちらが栄えるかというのは、時の流れとともにずっと移り変わってきた。その移り変わりは、今後も続いていくだろう。だから、アップルの覇権が終わるのは他のメーカーにシェアを奪われるというようなことではないと思う。自社の垂直型モデルのどこかに横串を通される、たとえばiPhoneのあるアプリが強大な力をもち、そのアプリさえ動けば端末なんて何だっていい、そんな風になるときではないだろうか。それがいつかはわからないが、いつかはそういう日が来るはず。