司馬遼太郎名場面集(7) 武市半平太の切腹

今回は『竜馬がゆく』から、坂本竜馬の友人である武市半平太が、切腹する場面。


(状況:土佐藩主・山内容堂に逆らった武市半平太は牢獄に入れられ、ついに切腹を申し付けられる)
いよいよ武市半平太切腹の日がきた。
武市半平太は短刀をとり、腹をくつろげ、しばらく気魄の充実してくるのを待ったが、やがて左腹の下部にずばりと突き立てた。
声は立てない。
きりきりとそれを右へ一文字に切りまわしいったん刃をひきぬくや、今度は右腹に突き立て、
やっ
やっ
やっ
と三呼叫び、みごと三文字に掻き切って突つぶせた。


武士の虚栄は、その最期にある。
切腹のことだ。どうみごとに腹を切るかが、
 おれはこんな男だ。
と自分を語るもっとも雄弁な表現法であるとされた。


死ぬことを称賛している訳ではないが、「どう死ぬか」を常に意識して生きることは、「どう生きるか」を常に考えているのと同じことだと思う。「死」を意識することで自分の人生が有限であることを認識でき、生きていることの価値を再確認できる。


幕末の志士たちは、大きな志のもとに行動し、道半ばで多くの者が死んだ。当然、死ぬときには無念も大きかった筈だが、その無念を微塵も感じさせることなく、見事に死んでいった。
死ぬまでにそんな精神境地がわかるようになれればなぁと思う今日この頃。